突然の離婚原因がない離婚の要求
春まっただ中の4月も終わりのある日
3年前に購入した自宅マンションに帰宅した夫の亮介(仮名)は妻の久美子(仮名)から
「大事な話があります」
と言われました。
夫 竹川亮介(30歳)は地方の銀行勤務。
妻 竹川久美子は専業主婦で同じ年で、見た目はキレイ系、都内近郊の出身。
ともに、四年制大学を卒業後に友人の紹介を通して知り合ったことがきっかけで、結婚しました。
結婚7年目。
亮介婦は年齢も同じなので、あらたまって話をされることはまずなかったのです。
何事かと思い、食事もそこそこに亮介は久美子の話を聞くことにしました。
久美子は最初はもじもじしていて話そうかどうか迷っている様子でしたが、意を決したように話し出しました。
「離婚してください。ごめんなさい。」
そう言うと、久美子はうつむいてしまいました。
亮介はあまりに突然の出来事にあっけにとられてしまいました。
夫婦は学生結婚で亮介にしてみれば、結婚後も久美子や家庭を大事にしてきたという思いがあったからです。
「あなたを愛せなくなったんです。
もうこれ以上、あなたと一緒にいられません。」
覚悟したように久美子はそう言うと、ふたたびうつむいてしまいました。
妻 久美子のこぶしはしっかりと握りしめられていて、離婚に対する強い決意が強いことがよくわかります。
しかし、亮介にとってみれば久美子の言う離婚の理由は納得することができませんでした。
一人娘は小学校2年生で、まだ小学校に慣れたばかりです。
『離婚すれば子供も傷ついてしまうだろう。
そんなことを久美子が「愛せない」という以外の何の理由もなく離婚を言い出すはずがない。
なにか本当の理由があるはずだろう』と亮介は考えました。
「しばらく時間をおいて、また話そう」
情けのないのと怒りたくなる気持ちをグッと抑えて、かろうじて亮介はそう言いました。
その後、1週間ほどの間、久美子の日常生活にこれといった変化はありませんでした。
家庭内のことはいつものとおりきちんとやっているし、子供とも楽しそうに話しているのです。
あれは久美子が冗談でいったのではないか???と錯覚するほどでした。
「離婚したいって冗談だろう」
さらに1ヶ月ほど経った5月のゴールデンウィーク。亮介は久美子に聞きました。
「本当に離婚したいんです。お願いします。」
やはり久美子はずっと離婚したいと思っていたのです。
そのときも亮介は離婚の理由についても聞いたのですが、
久美子の返答は前と『愛せなくなったから』というもの。同じでした。
わけがわからなくなってしまった亮介は、意を決して久美子のお母さんに会って話を聞いてみることにしました。
久美子のお母さんは55歳。まだスーパーでパートをしていて元気なおかぁさんです。
妻のお母さんなら何か知っているはず、と思ったからです。
もし、亮介の自分が気がつかないで行動していることに非があれば素直に謝ってもいい、と考えていました。
しかし、離婚の話を聞いたお母さんの方がびっくりした様子でした。
「そんなことを言ったんですか!!わがままな娘ですいませんね。」
どうやらお母さんも理由どころか、久美子が離婚したいと言っていることすら知らないようでした。
亮介は、愛していないから一緒にいたくない、と言う久美子の言葉を繰り返して頭の中で思い出していました。
そして8年前にプロポーズしたときのことを思い出しました。
そういえば、以前に同じようなことを言っていた言葉に気がつきました。
それは亮介が久美子に
「好きなんです。だから一緒にいたいんです。」
プロポーズを承諾した後で、結婚を受け入れた理由を久美子はこう言っていたのです。
それから、けんかもなく何事もなかったようにさらに一ヶ月が過ぎた頃。
亮介は『久美子が離婚したいというなら、離婚してもいい』と考えるようになりました。
このまま離婚したいという久美子と一緒に生活をしていても、結果的には自分も久美子も、そして子供も不幸になっていくとしか思えなくなってきたからです。
でも、久美子はいいとしても子供のことは考えなければなりません。
一人娘はまだ小学生に慣れたばぅかり。
できれば、子供は亮介である自分が引き取って育てたいと思っていました。
まだ夏の暑い日が始まる前の6月下旬。
亮介は離婚のことで久美子と話し合いました。
「君がどうしても離婚したいというなら離婚に応じることにするよ」
亮介はこのとき離婚することを決心していたのです。
「ありがとう。迷惑かけてしまって・・・・・」
久美子にこう言われては怒ることさえできませんでした。
「それで心配なのは子供のことだ。
どうだろう、僕が育てたいんだが・・・・・・」
せめて子供とだけは一緒に暮らしていきたい、という気持ちでした。
もしかしたら、久美子は結婚そのものが嫌になっていたとしたら、子育てもイヤイヤやっているのかもしれない。
そう思ったりもしたのです。
「子供は私に育てさせてください。
女の子だからいろいろあるので、母親が育てるのが一番と思うんです。
家庭裁判所でもそれらしいことを言っていました。」
「家庭裁判所に相談に行ったのか?」
「えぇ。裁判所だとどう判断するのかと思って。
でも、家庭裁判所の相談では離婚したらどう手続きするかっていう話ばかりで、
子供がどちらの親と暮らしたらいいのかっていうことは教えてくれませんでした」
すっかり二人は気まずい雰囲気となって話は中断してしまいました。
子供たちも夏休みに入ろうかとしている頃、亮介は、弁護士会の法律相談所をを訪れました。
離婚の相談のことで弁護士の法律相談に行くことは、気恥ずかしいという気持ちはありました。
心の中で抵抗がありましたが、なんとか子供と暮らすことができないか、ということだけは確認したかったのです。
「離婚は仕方がないとして、一人娘だけは渡したくないのですが・・・・・」
亮介は事情を話した後で、こう言いました。
「家庭裁判所は、離婚後の養育問題は子供にとってどうした方が一番いいのか、という観点から考えます。
話を伺っていると、私には奥さんが育てた方が子供さんにとってはよいと思いますが・・・・・・」
40歳前後くらいかと思われる女性の弁護士は、はっきりと言いました。
亮介はこれでは踏んだり蹴ったりだぁと思ったものです。
いくら質問しても『自分が答えてほしい』と思っているのと真逆な結論しか出てこないからです。
大事なものが自分の手の中からこぼれ落ちていくようでいたたまれない気持ちでした。
「どうでしょう。しばらくは正式な離婚はせずに 別居してみる ということにしては・・・・」
弁護士が提案しました。
「別居ですか?」
「離婚についても子供の問題についても冷静になって考えることができますよ」
亮介はそういう方法もあるのか、と思いましたが、最終的には子供は久美子が育てることになるだろう、と考えると釈然としない気持ちでした。
このとき感じていました。
『どうも、子育ての問題については男にとっては不利なようだ』
と。
続いて、弁護士は離婚した場合の親権者と監護権者について説明をしました。
「監護権者として久美子。
親権者として亮介。」
そんな方法もあることを説明してくれましたが、一人娘と一緒に暮らす、ということができる結論ではありませんでした。
「私と子供が暮らせる何かいい方法はありませんか?」
「それは難しいでしょうが、別居でも離婚でもそうですが、面接交渉権 というのがあって、子供に会うことはできますよ」
このとき亮介は、面接交渉権という言葉を初めて知りました。
弁護士の話によると面接交渉権とは、
たとえば、毎週日曜日の午前10時から午後5時まで子供に会うと決めて、その時間を一緒に過ごすというものでした。
一緒に暮らしたい、という亮介の希望とはほど遠いものでしたが、最悪の場合でもそういう方法があると思うと救われた気持ちでした。
そして、弁護士が言ったように子供にとってどういう選択をすれば一番よいのかを考えてみようと思いました。
7月の暑い頃。亮介は一つの結論を出しました。
そして久美子に提案しました。
「子供が中学校を卒業するまで別居ということにしてくれないか。君は子供を連れて実家に帰ってもいいよ。
生活費は毎月送るから。
ただし、日曜日の午後は僕が子供に会いに行くから一緒に過ごさせてくれないか。」
「いいわよ。私はあなたと一緒にいたくないだけなのですから・・・」
久美子の返事ははっきりしていました。
話はあっけないほど簡単に終わったのです。
夫婦として歩み寄ろうと報われない努力をすることにも疲れたという理由もありました。
こうして、亮介と久美子は別居することになりました。
子供の転校手続きも済ませました。
そして、別居から3年後。
亮介が再婚することになり、二人は正式に離婚しました。
その後も、亮介(正確には元夫)は一人娘とは週に1回会っています。
その度に亮介は子供に会うといつも思うのです。
「好きで一緒にいたいから結婚する。一緒にいたくないから離婚する。」
かつての久美子が言ったことを。
でも、本当の結婚生活とは、好きだから一緒にいるというものではないんじゃないか・・・・・・ という思いは消せませんでした。
どんなに片方が、相手を愛していても、もう片方が異性としての愛情を感じなければ、夫婦二人の関係は長続きしないものです。
はじめのうちは、どちらかの一方通行であったとしても、相手の愛情を受け止めてお互いに愛し合えるようになることもあります。
よくいう「情にほだされる」関係ですね。
でもそうならない場合もあるんですよね。
愛されれば愛されるほど、
尽くされれれば尽くされるほど、
関係がうっとおしいと感じるタイプです。
そういう人の考え方は、愛とは能動的でないとダメなんですね。
まず、自分の愛が先に生まれなければ燃えることのできないタイプです。
こういう関係だと、いかに夫が妻を愛して、誠実な言葉を積み重ねて、献身的にふるまっても、残念ながら妻の愛を得ることは難しいです。
どんなに相手を愛していても、自分が本当に愛されていない関係なら離婚したほうがいいです。
一方通行の愛だけがある結婚生活を続けていたとしても、そんな関係はいつか必ず破綻します。
一方通行だけでいいから結婚生活を続けたいと思いつつ、急に「離婚したい」と言われたら、、離婚を言い出した後は、夫婦二人が冷静に話し合うことが難しくなります。
特に、財産についてはこじれることも多いので、話し合う前に家の財産チェックをしておいた方がいいです。
もし自宅などの不動産を所有しているのなら、売却したらどれくらいの価格になるかを出しておくと有利になります。
自宅が財産になるかをチェックする方法は、住宅ローンと自宅の価値を比較するだけです。
→住宅ローンがあるときに財産があるかのチェック方法
よく「恋人と夫婦は違う」と言われることがありますよね。
特に心の問題では「恋人同士の感情」と「夫婦愛」は違うということ。
恋の感情は、一時的で永続性はありません。
夫婦の愛情は、恋とは違って、単なる感情ではないですよね。
「この人を愛するんだ!」という決断や意思がないと、愛は続きません。
恋人が別れる時によく言うフレーズ。
「あの時は好きだったけど、今はもう好きじゃなくなった」
これは、恋という感情がなくなった理由です。
これを夫婦の関係にそのまま持ってくると、
「これまでは愛していたけれど、今は愛せなくなった」というのは、正確に言うと、
「これまで愛していると錯覚していたけれど、本当は愛してなどいなかった。ということに、今気がついた」
ということを意味しているわけなんですね。
夫婦は恋のような一時的な感情では続きません。
愛情という決断・意思がないと続くものではないんですね。
夫婦に子供がいた場合は親権、養育費などの法律上の問題や金銭問題も絡んできます。
夫婦の愛情がなくなったから別れる、というなら、離婚するという違う意味での決断・意思が必要です。
離婚原因がないか、証明ができない場合、一生離婚できないのでしょうか?
それこそ、愛が感じられなくなったら離婚してはいけないものなのでしょうか?
確かに、夫婦でいるときは愛し、愛されていると感じられないと、「どうしてそんなことするの・・・」みたいな思考になりがちです。
おそらく、それが『性格の不一致』というものなのでしょう。
離婚原因の1位はいつも性格の不一致というわかったようなわからないような原因です。
しかし、そんな状態で夫婦の生活を続けていれば、自分が精神的につらくなり、これ以上の同居には耐えられないと感じることもあるかもしれません。
そのような時は、いきなり「離婚したい」と言い出して別れるのではなく、別居も検討の一つにしてください。
別居となると、すぐに離婚の前兆と考える人も多いのは確かですね。
ただ、同居を継続する限り、相手が応じなければ、離婚することは難しい かもしれません。
別居すると、結果的には離婚になってしまうケースも多いんですが、離婚を踏みとどまるケースも多くあるんです。
別居は離婚について冷静に考えるために有効な期間ということもできるのです。
とはいっても、妻が子供と家を出て行って別居する場合にはいくつかの問題もあります。
まず、
ということです。
通常、離婚をしていないので専業主婦の場合は生活費は夫に請求することができます。いわゆる婚姻費用というものですね。
また、
があります。
住所に変更がある場合、健康保険証の手続きをして、再発行してもらわなければなりません。
同じ居住区内なければ、学校も変わることになるので、妻と子の住民票を移すことも必要になります。
面接交渉権は、別居状態でも家庭裁判所に申し立てれば認めてもらえます。
面接交渉の回数は月1回以上が最も多くなっています。
家庭裁判所ではだいたい週に1、2回、4時間程度、日時・場所を指定して許可されます。
ただし、亮介(久美子)に暴力等があって子の成長にとって悪影響と判断された場合には面接交渉権は認められません。
あくまで、子供の利益、子供の福祉のためだからです。
テレビのドラマなどで離婚した中年の男が、休日に遊園地で自分の子供に会って、楽しそうにしているシーンを見ることがありますよね。
離婚の先進国?アメリカではウィークエンドファーザーといって、別れた奥さんから週末に子供を子供を預かって一緒に過ごし、週明けに奥さんの元に届けるという一つのパターンがあるそうです。
日本でも離婚がさらに増えてくるとにそうした生活のパターンも日常的になってくるかもしれませんね。
「離婚」を言い出す前にする『離婚』を考えたときすべき準備とは