妻の手のひらで踊らされていた
陽子さん(42)は大変聡明な女性です。
ただ少し舌足らずなところがあって、愛嬌十分なキャラクターもある。
周りからはちょっとおっちょこちょいでのんびりした人と思われています。
ところが、思い込みはやっかいで、一度信じ込んでしまうと、その気持ちを変えるのはなかなか難しい性格の持ち主でした。
その彼女を一番頼りなく思っているのは夫だったんです。
もちろんそれも無理のないことで、彼自身がいわゆるものすごく優秀な方だからです。
夫は48歳にして外資系企業日本法人のトップに抜擢されたエリートです。
ところが、その類いの男性に多いタイプになってしまっています。
身内がどんなに頼りないかをサカナにして、そのために自分がどんなに苦労しているかを自慢げに語るタイプです。
知り合い達の間で「うちのやつはちょっと普通とは感覚がずれているから、オレは大変だよ」などということを平気で話してしまう無神経な面が、どんどんエスカレートしてきたのです。
そんな夫の態度が心の底から嫌になってしまった陽子さんが、法律相談を最初にしたのが2年半ほど前のことでした。
2年半前の法律相談
「うちの妻は何にもわかっていないアホだ」
うちの主人はそう思っていますし、それを平気で口に出す人です。
いつまでもそればかりで、私はもうそれに我慢ができなくなってきています。
ただまだ小さい子供たちがいるので、なかなか、自分の勝手にというわけにもいきません。
どうせ離婚しなければならないのなら、一番高い値打ちがあるときに離婚届を売れるように考えるといいわよ。
バカなふりを続けながら、準備は着々と進めるスタンスでいくといいですよ。
わかりました。わたし、主人の前では、いままでどおりバカに思われた方が賢い、ということですね。
突然の弁護士登場
それから2年ほど、陽子さんは夫の資産状況を調べました。
その結果わかったことがありました。
- 実績が評価されて、数ヶ月以内に米国本社のパートナー就任が約束されていること。年間数億円のボーナスが支給されること。
- 外資系企業だけに業績悪化で失職するリスクがあること
- ここ数年間の報酬分(約8000万円)の税引き後手取額の多くは外国債券の購入に充てられていること
- 現在の職に転職する前にためた資産のほとんどを、いまの家を現金で購入し、ローンは残っていないこと
夫婦には12歳の男の子と10歳の女の子がいますが、夫はこの二人を非常に大切にしています。
とくに男の子には日頃から最高の教育環境を与えたい、と公言していました。
そこで、離婚の条件として
共有財産のうち、現預金の半分、不動産は夫
年金分割、親権、外国債券は二人の子供の将来的な養育費相当を含めて妻の陽子さん
というものに設定しました。
その結果、離婚の意思とその条件を夫に言い出すタイミングを、米国本社の決算が出て各パートナーへの特別ボーナスが支給される直後に設定したのです。
その日、連絡をとってあらわれた弁護士が、陽子さんの代理人だと名乗ると、夫は一瞬ぽかんとした顔をしていました。
その前で、
- 妻の陽子さんに離婚の意思があること
- 離婚にあたって考えられる条件
- もし、離婚に同意してもらえない場合に考えていること
などを順番に話したのです。
さすがの夫は、最初の驚きから立ち直り、妻の条件は的確に理解し、その場ですぐ、陽子さんの希望に基本的には同意したのです。
油断大敵で足下をすくわれた形になった夫ですが、離婚の条件に同意したのは結局は二人の子供への愛情が大きかったからのようです。
離婚したいと思ったらまずは財産チェック
「離婚したいほどつらい」
と言ったら、
「(何不自由なく生活しているのに)何がつらいんだ」
と返ってくることがあります。
そして、その言葉でさらに深くつらい思いをしたりもします。
それよりは、もっとシンプルに
「離婚したい」
と言ったほうが、インパクトがあります。
相手の方は、多少はそのインパクトに右往左往します。
そこからです。
離婚のときにいざこざの問題になるのは、親権・財産のことがほとんどです。
離婚したいと思いつつ、離婚を言い出した後は、夫婦二人が冷静に話し合うことが難しくなります。
だから、離婚について話し合う前に家の財産チェックをしておいた方がいいです。
もし自宅などの不動産を所有しているのなら、最終的に離婚したとなるとお金の問題は、財産分与で清算、という方法をとります。
売却したらどれくらいの価格になるかを出して、資産価値からの処分を検討しておきましょう。
住宅ローンはその価格から差し引きます。
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